Founding Street Piano
―ストリートピアノ設置の勧め―
コンセプト
ストリートピアノ(略称:ストピ)は、誰もが自由に弾くことができ、足を止めたり立ち去ることも含めて誰もが自由に聴くことができる公共空間などに置かれたピアノです。
「誰もが自由に弾くことも聴くこともできる」ため、ストリートピアノは、カラオケに近いような形で、観覧者が演奏者の側に回ることも容易であり、「観てたら弾きたくなったので弾いてみた」という役割の入れ替わりが起きます。これは他のイベントにはあまりないストリートピアノの特筆すべき特徴であり、観覧への参加から、観覧者・演奏者・主催者間の交流を通じて、演奏への参加へと、参加性の階段をスムーズに登って行くことが可能です。さらには、主催スタッフ側に参画することもできます。そして、一連の交流は地域のコミュニティづくりを促します。
「公共空間」は、駅、空港、商店街、ショッピングモール、広場、公園といった様々な公共スペースです。公共空間「など」というのは、ホテルのラウンジ、カフェ、レストラン、さらには店や家の中に置かれていたとしても、安い料金ないしは無料で演奏することができれば、ストリートピアノ的なものと捉えることができるからです。たとえば、寺ピアノのある岩淵・正光寺は公共空間でもあり私的空間でもあります。SNSを使うなどして「住み開き」をすれば、家であっても準公共的(セミパブリック)な空間にすることができます。
https://gyazo.com/0b1518da3e40e88c0ad8a37f0b7c0d38 https://gyazo.com/3da4245c204c86cc2663c04f183ce867
賑わうイベントストピ(王子ストリートピアノ) ほのぼのとした常設ストピ(寺ピアノ・岩淵パブリックピアノ )
年に数回だけ土日や祝日に行う「イベントストピ」は、告知すればYouTuberやプロピアニストを含めた多くの演奏者と聴き手が集まり、お祭りのように盛り上がります。ただし、イベントストピの場合には、感染症対策等をかなりしっかりやる必要があります。
基本的には毎日開催ですが、週1, 2回程度も含めた「常設ストピ」は、一度に多くの人びとが集まるわけではなく、中高生などが弾きにきたり、ストピビギナーや地域の方々が弾きやすい街の顔になります。またコロナ対策にもよいです。ただし常設にすると、長期にわたるために騒音の問題が構造的になるので、これを予めクリアしておく必要があります。
ストリートピアノを設置するメリット
ストリートピアノを設置することの第1のメリットは、地域におけるコミュニティ形成です。一般の人びとの演奏が一緒に聴いている人や演奏者と話すきかっかけになり、年齢・性別・学歴・職業・社会的地位などの違いによる様々な敷居(ソーシャル・バリア)を取り払って交流が促進されます(簡単にいえば音楽は人びとの距離を縮めます)。特に、ストリートピアノは全ての世代の方々が楽しめるので、多世代交流を超えた《全世代交流》が促されます。なお、通常のコンサートなどでは私語は禁止ですが、ストリートはそもそも雑音が多いので、ストリートピアノをBGMに演奏者に配慮しながらも会話することができます。(なおコロナ禍ではマスクの着用は必要ですが、ストリートピアノは基本的には屋外に設置されるか、屋内でも音が屋外にも漏れるようにドアを開けているので換気は大変よいのです。)
第2のメリットは、まちでの居場所、すなわち家と職場(学校)に次ぐ第三の場所としての《サードプレイス》の提供です。特に常設に近い形のストリートピアノは、無料ということもあり、高齢者、障碍者、子ども、不登校児といった比較的立場の弱い人びとが日常的に地域において居ることができる場所になりえます。公園、図書館、公民館といった公共的な場所と同様に、公共的なストリートピアノは、そういった立場の弱い人びとにとっての憩いの地にもなり、地域社会の優しさを示す場所にもなります。演奏者という役割だけでなく、《聴き手という役割》によって、その場に居心地よく滞在する理由が生まれ、多くの人びとがまちに居場所を得ることができるのです。
第3のメリットは、一般の方に社会参加の場を提供することです。ストリートピアノの主人公は、プロのピアニストではなく、ピアノを弾く一般の方々とそれを聴く地域の方々(およびその場に居合わせた方々)です。技量にかかわらず誰もが自由に演奏できることで、プロではないがピアノを趣味とする多くの人びとが主体的に文化的まちづくりに気軽に参加できます。特に子どもも含めてピアノ人口はとても多く、そういったプロではない多くの方々が公共の場で演奏できる機会はストリートピアノ以外にはとんどありません。そのような多くの方々に社会参加の機会を提供することは文化芸術の裾野の広がりに貢献します。
第4のメリットは、教育的効果の高さです。大人の生涯教育に寄与するのはもちろんですが、特に子どもや若い世代にとってストリートピアノは大変教育的であり、人前で弾くことで、将来、音楽家として大成する人も出てくるかもしれません。ストリートピアノによって、地域の人びと皆で将来の音楽家やアーティストを育てていくプロセスを共有することは、地域の《シビックプライド》にも貢献します。また、大成する音楽家を輩出しなくても、ストリートピアノは多くの子どもたちや若者のピアノの技量を向上させ、上述したように文化芸術の裾野を広げるだけでなく全体として向上させていきます。
第5のメリットは、アコースティックな生演奏鑑賞の機会を提供することです。クラシックやジャズのコンサートにふだん行くことがない多くの方々にとって、ストリートピアノはアコースティック楽器の生演奏を鑑賞する稀少な機会になります。コンサートホールとはもちろん違うシチュエーションにはなりますが、動画配信、TV、DVD、CDといったメディアを通すものではなく、ライブを直接観て聴くことは、演奏者にとっても大変な励みになるだけでなく観覧者にとっても教育的であり、生活を文化的なものにしてくれます。
第6のメリットは、無料か安い料金で気軽に参加でき、しかも参加度合の自由度が高いストリートイベントの機会を提供することです。ストリートイベントは、立ち止まるも立ち去るのも自由であり、誰でも観て聴くことができます。加えて、ストリートイベントの観覧は基本的には事前予約やチケットも不要であり、ストリートという自分の名前や身分等が特定されない気楽な状況ゆえ、観覧・鑑賞の敷居が非常に低いのが特徴です。また、ミュージシャンによるストリートライブ、大道芸、マジック、サーカス、似顔絵といった通常のストリートイベントとは異なり、観覧者と演奏者の間の敷居も低く、観覧者が演奏者の側に回ることも容易であり、気分に応じて参加度合を自由に決めることができます。
第7のメリットは、地域に賑わいをもたらすことです。特に年に数回、土日や祝日のみに開催されるイベントストピは、遠方からも多くの演奏者やストリートピアノYouTuberが訪れるため、観覧者も地域の方々だけでなく、遠方からも来られます。ヴァイオリン、フルート、クラリネット、サックスなどの楽器を持ち込まれて、楽しげにセッションが繰り広げられることも多く、ストリート等の公共空間に置かれたピアノ1台だけで、フェスやお祭りのような大変な賑わいになります。これはまちの活性化や地域創生にとって大きなポイントになります。
第8のメリットは、地域や場所のアピールになることです。遠方からわざわざ訪れてくれる演奏者は、地域の価値を証明してくれます。他地域から継続的に足を運んでくれる演奏者は地域に関わる「関係人口」ともいえます。また、その演奏を動画サイトにアップロードするストリートピアノYouTuberのおかげで、設置された場所やまちのPRになります。人気YouTuberの動画は、100万回再生以上になることもあります。ちなみに2020年9月下旬に開催された赤羽ストリートピアノでは、まだ4カ月ほどにもかかわらず、500万回再生を突破した動画もあります。これらはもちろんシビックプライドにも貢献します。
以上、ストリートピアノのメリットを8点に分けてあげました。第1と第2の点は演奏者と観覧者の両方に関わり、第3と第4の点は演奏者に、第5と第6の点は観覧者に、第7と第8の点はストリートピアノ周辺の商店や住人に主に関わるものでした。つぎにみるように、ストリートピアノはピアノを置くだけなので、金銭的にはあまり費用がかからないにもかかわらず、以上にあげたように多くのメリットをもたらす、大変コストパフォーマンスのよい、まちづくりコンテンツの1つといえます。
ピアノの音に対する苦情など、すこしデメリットもありますが、非日常的なイベントでは1, 2週間以上前に事前告知を行っていれば、それほど問題はありません。また、常設の形ならコミュニティ・スペースのような屋内に置き、ガラス戸などの開け閉めにより、屋外に漏れる音量をコントロールすることで苦情を減らすことはできます。
どれくらいの費用がかかるのか
ミニマムなものはピアノの「運搬費」「調律費」「感染対策費」のみです。
これらに加えてピアノの「装飾費」とボランティアに対する「人件費」(交通費・昼食代を含む)、また交通整理員を外部に依頼する場合は「交通整理費」(人件費の一種)が発生します。
運搬費は業者を使えば3万円、調律費は1万~2万円程度です。感染対策費には、検温器や消毒用のアルコールとその容器などで高くはないです(既に所持)。装飾費・人件費はそれぞれ数千~数万円です。
いずれの費用も、会場(商店街様)ではなく、北区ストリートピアノ実行委員会の予算で負担することが可能です。
じっさい、赤羽ストリートピアノでも王子ストリートピアノでも、会場からは場所をお借りするだけです。(ただし、ララガーデン様からは応援的な意味あいでの協賛金はいただいております。)
ストリートピアノ設置への思い
上述したように、様々なメリットがあるストリートピアノを北区でも設置したいのは、武藤が北区(赤羽)に十数年住んでおり、地元を音楽や芸術の力で文化的に盛り上げたいからです。赤羽には一番街などの飲み屋街、岩淵には赤水門や荒川土手の自然、十条にはお惣菜屋が立ち並ぶ十条銀座、王子には飛鳥山公園、滝野川には旧古川庭園など、北区には多くの名所はあるものの、近くにある池袋や川口に比べると、音楽文化はマイナーであり、悔しく思っておりました。
北区と隣接する豊島区では既にアコースティックピアノと電子ピアノが1台ずつストリートピアノとして設置されています(池袋は芸術劇場を有し、近くに音楽大学も多く、じつは音楽の都です)。同じく、北区と隣接する川口市ではジャズフェスから始まった川口音楽フェスや、リリアという駅前のコンサートホールなど、音楽まちづくりに力を入れています。豊島区と川口市に挟まれた北区でも、音楽まちづくりを僕ら住民自らの手でしたいという思いがありました。
武藤は以前よりピアノ教室内でのピアノパーティを主催しており、これを誰でも参加できる公共的なものに発展させることにできないかと考えていました。仁科は赤羽小学校の親父の会で活躍していましたが、子供たちが10代後半になって親離れしていくタイミングで、地域に貢献できるイベントができないかと模索していました。背景が全く異なる二人が意気投合し、2019年6月1日と2日に赤羽ストリートピアノvol.1を主催しました。
その後、赤羽で3回、岩淵でも2回、王子でも2回、ストリートピアノイベントを主催し、岩淵では週2回ですが常設ストリートピアノを正光寺にて設置しています。2020年には北区から地域振興事業として助成金も1年間いただき、ストリートピアノを北区に面的に広めるべく確実に前進しています。これは全国的・全世界的なムーブメントと呼応するものです。
https://gyazo.com/ba25c4a42eb339bc336c108d5b996f9bhttps://gyazo.com/7b8ba3ea2f376f5a732cf63631a7749f
盛り上がるストピ(赤羽ストリートピアノVol.3) 子どもたちも演奏者に
2022年2月現在、全国的にも常設だけでもストリートピアノの設置は480箇所に迫るものになっており、全国的なムーブメントになっています。マルシェなどと同様に、ストリートピアノは地域の文化的成熟(文化芸術への理解)と市民的成熟(ボランティアへのコミットや地域支援)の両方を必要とするため、地域の価値を示すものの1つと考えられはじめており、「ストリートピアノがある地域はいいね!」という評価が広まってきていると思います。
そして遠からず「ストリートピアノをまだ設置してないの?」という状況になってくると思います。そこで早めに設置したり、イベントをすることは、地域の価値を毀損しないためにも、むしろリスク回避になると考えています。もともと、ストリートピアノは公共空間に(廃棄処分されるはずだった)ピアノを置くだけのものなので、費用もあまりかかわらず(ボランティアでも可能なレベル)、リスクも少なく、きわめてコストパフォーマンスがよい事業なので、むしろやらない理由が見つからないのです。
それゆえか、2017年秋に大手企業のYAMAHAがLovePianoというストリートピアノ事業を始めてから、このような地域創成のやり方があることの認知が急速に広まり、ここ2, 3年の間に全国的な大ブレイクが起こっています。加えて、2020年後半より、ストリートピアノで活躍していた「ハラミちゃん」が芸能界に進出したことで、また、彼女と同レベルのピアニストも多くいて後に続く層も厚いため、この勢いは当分の間、とどまらないと予測されます。
このような状況のもと、私たちは東京都北区をストリートピアノの聖地にすることを目標に動いています。幸い、私たちが主催するイベントは、主催者たちが来客者をホストとしてもてなしながら盛り上げていくこともあり、演奏者、観覧者、地元商店等から理想的なストリートピアノとして高く評価され、次回の開催をつねに望まれております。また、2020年10月下旬からはじまった正光寺における岩淵パブリックピアノ(通称・寺ピアノ)も、現在はコロナ禍で休止中ですが、地域の観覧者と地域内外から来られる演奏者の交流の場として、大変ご好評をいただいております。
以上のように、私たちは自らの手でストリートピアノ文化を作っていくことで、地域のコミュニティづくりを進め、地域を活性化していきたいと考え、日々、実践しています。
コロナ対策
密を回避するためには、さまざまなやり方があります。
1. 常設化して分散する:毎日から週に1, 2回以上開催することで日常化する
2. イベントストピでは無告知ないし、直前告知とする
3. ソーシャル・ディスタンスを心がけるよう、現場でスタッフが検温、注意喚起、椅子等を置く
(参考)赤羽ストリートピアノにおける感染症対策の現場配置
2020.9.26 - 9.27
https://gyazo.com/e4c30ca4f433e258b6c1116160d613ca
ピアノ:中学校に背を向けて演奏
ロープ及び入場門:入場門で観覧者の検温をボランティアスタッフが実施し37.5度以下であることを確認
(ロープの外に立つ人は、中に入るよう促すが強制はしない)
椅子:2mおきに設置しグループ間の距離を保つ
演奏者:万が一クラスターが発生したときに追跡が可能な状態にするため連絡先を確認しておく
前日告知:以前はSNSやポスターにて数週間前から事前告知をしていたが、今回は感染症対策の一環として前日告知のみ
ライブ配信:感染症対策の一環として当日はYouTubeでライブ中継を行った
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